死んだらなにもかもぜんぶ、自分というものはなくなってしまうのだ。この本を読んで、存在には終わりがあることに気づいて眠れなくなった、こどもの頃の夜を思い出した。人間でも獣でもないムーミンたち。彼らのかたちはそれぞれとてもシンプルでキャッチーだ。そして、そんな彼らはたいてい書き込まれた風景のなかに立っている。岩のごつごつ感、雨の粒の鋭さ、絡みあう植物の湿り気まで感じられそうな、みっちりとした自然のなかが多い。ムーミンたちの線はそれとは混ざらないほどくっきりしているが、ふと目を離すとどこかにいってしまいそうにもみえてくる。実際に、作中の彼らは行きたいところに行き、したいことをして、言いたいことを言う。おそらく、そのまばゆいばかりの奔放さにより、死や終わりなどの影もいっそう濃く感じられるのではないだろうか。その雰囲気は水木しげるの作品にもどこか通じるものがあるように思う。まっくらやみのおそろしさと心地よさに触れさせてくれる一冊である。
ムーミン谷の彗星
推薦文

ムーミン谷の彗星
- 著者:
- トーベ・ヤンソン作・絵 ; 下村隆一訳
- 出版社:
- 講談社
- ISBN:
- 9784061882218
- 所蔵:
- 中央図書館 開架
993.61:Mum:(01)

鳥取大学
米子地区事務部
教職員