私が推薦する「少女地獄」の作者、夢野久作は昭和初期に活躍した。SF小説や探偵小説、幻想文学等を執筆しており、彼の代表作「ドグラ・マグラ」は日本探偵小説三大奇書のうちの一つである。彼の作品の特徴は色濃い怪奇色と幻想性であり、その独特な作風に読み手は悍ましさを感じるであろう。
「少女地獄」は、「何んでもない」、「殺人リレー」、「火星の女」の三作品で構成されており、どの作品も女性が持つ強さや怪しさ、なまめかしさが巧みに表現されている。特に私が推薦したいのは「何んでもない」である。物語のあらすじは次のようである。医師の前に看護婦の仕事をしたいという少女が現れる。彼女は仕事を見事にこなし、愛嬌の良さから誰からも愛されていた。しかし、彼女には虚言癖があった。虚構のために虚構を重ね、周囲を乱していく。
この作品が発表された当時は、女性運動によって女性の権利が確立されて始めていた。今日でも女性差別の意識は根強いが、当時の差別は教育や政治といったあらゆる面においてさらに厳しいものであった。その様な時代背景のもとで書かれたこの作品には、女性の妖艶さと共に、当時の厳しい社会の中で生きる逞しさもみられる。作品を読むにあたっては、時代背景やそこに生きる女性像を感じ取って欲しい。
少女地獄
推薦文

少女地獄
- 著者:
- 夢野久作著
- 出版社:
- 角川書店
- ISBN:
- 9784041366059
- 所蔵:
- 中央図書館 開架
913.6:Yum

鳥取大学
工学部社会システム土木系学科
宇井覚(P.N.)