この本を薦めるポイントとして、まずは短編で読みやすいこと、登場人物が少ないことの二点を挙げます。この本には「白い紙」と「サラム」という二つの短編が収録されています。どちらも、要となる登場人物は三、四人でありとてもシンプルな構成で読みやすい短編となっています。
続いて、本の内容に踏み込んでいきます。二つの短編に共通するテーマは「紛争」です。「白い紙」は紛争地区に暮らす主人公の目線から描かれた短編です。一方、「サラム」は紛争地区から逃れた、いわゆる「難民」を受け入れる国に暮らす主人公の目線から描かれた短編です。同じ「紛争」というテーマを扱っていながら、視点が正反対の短編が収録されている点が面白いと思います。なぜ作者は「白い紙」から収録したのでしょうか。あえて、「サラム」から読んでみると捉える印象も変わってくるかもしれません。
さて、この本はイラン出身の著者が日本語で書いたものです。翻訳者はおらず著者自身が日本語で書いています。そのため、イランという紛争が身近な国で育った著者の感性がダイレクトに伝わり、リアリティのあるフィクションを読むことができます。
なお、この本は現在絶版で入手が困難な本です。しかし、鳥取大学の中央図書館には二冊蔵書があるため鳥大生にぜひ読んでほしい一冊に選びました。時には自分の専攻する学問分野から逸脱した分野にも触れてみよう、と思うきっかけになれば幸いです。
白い紙/サラム
推薦文

白い紙/サラム
- 著者:
- シリン・ネザマフィ著
- 出版社:
- 文藝春秋
- ISBN:
- 9784163284101
- 所蔵:
- 中央図書館 開架
913.6:Nez

鳥取大学
農学部共同獣医学科
北川 文子