多くの危機を乗り越え、総移動距離60億kmを経て地球に帰還した奇跡の小惑星探査機「はやぶさ」。その指揮をとった著者は、未知の分野を切り開いたからこそと思わせる思考法を本書で示し、行間から説得力がにじむ。
父親から「足元ばかりを見るな、時には頭をあげて上を見ろ」と言われたエピソードや、自身の「高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない」の言葉は、我々が、目先のことだけで見失いそうになる長期的な目的を見極めた上で、今なすべきことを判断する大切さを、改めて想起させてくれる。
また、創造的な仕事をするためにも、過去しか書いてない教科書に学ぶが、学ぶだけでは誰かの模倣で終ると語り、何のために学ぶのかを自問自答する必要性に気づかせてくれる。その学びの先に模倣から脱し、未来の教科書に載るような独創的な仕事をする目的のため、自らが試行錯誤し開拓していくのだと。
さらに社会と科学技術との関係についても示唆的である。「はやぶさ」の状況を、国民にいち早く知らせたからこそ、皆が「はやぶさ」に関心を持ち、時には感情移入し勇気付けられたのだろう。人々に与える科学技術の影響を考させられた。
さて、著者の狙いは、本から学ぶだけでは誰かの模倣に終わるからダメだと書いている。むしろ、自分がどう新たな分野を開拓するかである。さあ、70年の過去に学び、今から創造的な仕事を始めるきっかけとしたい一冊である。
はやぶさ式思考法 : 創造的仕事のための24章
推薦文

はやぶさ式思考法 : 創造的仕事のための24章
- 著者:
- 川口淳一郎著
- 出版社:
- 新潮文庫
- ISBN:
- 9784101272511
- 所蔵:
- 中央図書館 新書・文庫コーナー
文庫:SCB:か70-1

鳥取大学
医学部医学科准教授
中根 裕信