ビタミン発見の物語 ~論より証拠~
皆さんは「ビタミン」というと体にとって大切な栄養(素)というイメージを持たれていると思います。実際、歴史上ビタミン欠乏症は多くの人の命を奪ってきました。また、ビタミンの多くは欠乏症の原因を探る中で発見されてきました。
「白い航跡」は、後に東京慈恵会医科大学を創立した高木兼寛の生涯を描いた小説です。兼寛は海軍病院長時代からの疫学的研究により遠洋航海で多発した脚気の原因が食物(白米食)にあると考え、兵食を麦食へと改善し、海軍における脚気を絶滅させました。一方、森 林太郎(鴎外)などの陸軍軍医本部は「脚気の細菌感染説」を主張し、白米食を続けたため、日清戦争では戦死者よりもはるかに多くの脚気死亡者が発生しました。理論を重んじるドイツ医学を採用した陸軍と実証主義のイギリス医学を採用し、「論より証拠」を重んじた海軍は明暗を分けることになりました。この兼寛の研究がビタミンB1の発見、脚気の原因がビタミンB1欠乏であることの証明へとつながっていきます。
この本は、将来未知の事象(病気)に遭遇した場合、どのように対処すれば良いかということを考えるきっかけにもなります。ぜひ一読することをお勧めします。
白い航跡
推薦文

白い航跡
- 著者:
- 吉村昭著
- 出版社:
- 講談社
- ISBN:
- 9784062765411 ほか
- 所蔵:
- 中央図書館 新書・文庫コーナー
文庫:KOD:よ3-24, 文庫:KOD:よ3-25

鳥取大学
副学長(附属図書館担当)
松浦 達也