第七官界彷徨 : 琉璃玉の耳輪 他四篇

推薦文

第七官界彷徨 : 琉璃玉の耳輪 他四篇
著者:
尾崎翠著
出版社:
岩波書店
ISBN:
9784003119617
所蔵:
中央図書館 新書・文庫コーナー
文庫:IBK:G196-1

 昭和初期に活躍した鳥取出身の作家、尾崎翠の代表作です。
 「人間の第七官にひびくような詩」を書きたいと願っている少女、小野町子が、精神科医の長兄、植物の恋と肥料を研究する学生の次兄、音楽予備校生の従兄弟という「変な家庭の一員」として過ごす物語です。
 入院患者に心惹かれ、研究対象の植物の恋と自分の恋を重ねてみる、センチメンタルすぎる理系男子の兄たち。感受性は豊かだが怠惰で流されやすい従兄弟。どこかはみ出して奇妙で、それでいて優しい男子たちに囲まれた、町子のふわふわとした日々は、後年の少女マンガに受け継がれていったのでしょうか。昭和6年に書かれたと思えない、不思議となじみのある世界です。
 第七官とはこんなものでは…と感覚をつかみかけながらも、町子の書く詩は哀感のこもった(おそらくは平凡な)恋の詩になってしまいます。霧のようにつかみどころがなく、たどり着けない感覚の世界が、第七官界なのでしょうか。
 映画『尾崎翠を探して : 第七官界彷徨』(浜野佐知監督、1998年)の中で、尾崎翠が書庫にいるシーンは、鳥取大学附属図書館で撮影されました。その映像作品も図書館にあります。小説と合わせて楽しんでみてはいかがでしょう。

鳥取大学
研究推進部図書館情報課長

木下 直

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