The Whispering Pond 創造する真空 : 最先端物理学が明かす「第五の場」

推薦文

The Whispering Pond 創造する真空 : 最先端物理学が明かす「第五の場」
著者:
アーヴィン・ラズロー著 ; 野中浩一訳
出版社:
日本教文社
ISBN:
9784531081226
所蔵:
中央図書館 開架
420.4:Soz

 自分の死後、世界が理解出来るようになったら公開してくれと、アルベルト・アインシュタインが娘に託した手紙は感動的です。「現段階では科学がその正式な説明をしていない『ある極めて強力な力』がある。(中略)この宇宙的な力は『愛』だ。」。彼の最も有名な方程式E=mc2(エネルギー=質量×光速度の2乗)を引き合いに出してノーベル物理学者らしいスタンスを示しながらもまるで詩のように語りかける文章は、形而上学か神秘主義の領域と考えられていた世界に愛をもって切り込んだ勇気ある表明でありました。
 精神論で語られがちな「類友の法則」「鏡の法則」を科学的に説明してくれる何かを求めていた時に出会ったのが量子力学、そしてアインシュタインの言葉。専門書はなかなか手強いのですが、ご紹介する本は、ノーベル平和賞候補にも挙げられた哲学者、物理学者である著者が書いた、自然科学の基盤に立脚し現在の科学をもってしてもなお残る謎の解明を試みる統合案内書です。彼の「量子真空とは、物質も心も含めたこの世の全ての根源となる実在『The Whispering Pond』(響き合う宇宙の海)であり、このエネルギー場において我々は微妙な相互作用をもたらしている」という仮説は、私たちが互いや自然から切り離されていると考えるが故に生じている多くの不幸を霧散させる慈愛に満ちたものと言えます。アインシュタインが世界の無理解を憂えてから半世紀以上、何故人を愛するのか、その前にどうして自分を愛すべきなのかを、隠喩的に悟らせてくれる哲学的な一冊です。

鳥取大学
理事(地域連携担当)・副学長

藪田 千登世

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