海賊とよばれた男

推薦文

海賊とよばれた男
著者:
百田尚樹著
出版社:
講談社
ISBN:
9784062175647 ほか
所蔵:
中央図書館 開架 ほか
913.6:Hya:(1)

 「本屋大賞」にも選ばれ、映画化もされているので、本書の表題を目にした人も多いのではないかと思うが、出光興産の創業者である出光佐三氏をモデルにした歴史経済小説である。上下巻740ページになる大著であるが、百田氏の抜群の筆力により、一気に引き込まれてしまう作品である。
 物語は、現在の福岡県宗像市の染物業商家に生まれた國岡鐵造が神戸高商の学生時代に秋田への旅先で見た油田から石油の将来性に強い関心を持ち、日田重太郎という資産家の支援を受けて、國岡商店という石油販売店を興し、様々な障壁や妨害、統制などによる絶望的な状況に対して、強力なリーダーシップを発揮し、社員とともに奮闘してこれらを乗り越え、業界第2位の大企業に成長させた軌跡を描いている。
 鐵造たちの活躍は、その困難度が想像を絶するほどのものであることから、打開していく姿はより一層痛快であり、わくわくするものであるが、これはまさに出光佐三氏の軌跡をモチーフにしているものである。彼は、「大家族主義」、「人間尊重」の理念を貫き、敗戦により借金だけが残った中でも、一人の社員も解雇することなく、事業を推し進めていくのである。
 ちなみに、佐三氏は、後の世界遺産に繋がる沖ノ島の学術研究調査事業や福岡教育大学の宗像市への統合誘致等に多額の私財を投じるなど、教育や学術・文化の発展にも大きな功績を残している。
 本書から是非、鐵造の信念を持った生き方とそれを貫き通す勇気を読み取っていただきたい。

鳥取大学
理事(総務担当、財務担当、施設・環境担当)・副学長・事務局長

松田 成史

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