十二支考

推薦文

十二支考
著者:
南方熊楠著
出版社:
岩波書店
ISBN:
9784003313916 ほか
所蔵:
中央図書館 新書・文庫コーナー
文庫:IBK:B139-1

 濃厚に味付けされた、高カロリーの食べ物のような書物だ。ものすごくうまい。だが、胃もたれを起こすかもしれない。
 本書は、希代の碩学、南方熊楠(みなかたくまぐす)(1867-1941)が、十二支の動物それぞれに関して、説話、伝説、神話、民俗といった古今東西の知識を詰め込んだエッセイである(ただし、牛は書かれていない)。とにかくその該博な知識に驚く。「古今東西の知識」と書いたのは、常套句ではなく文字通りの意味である。日本の文献は言うに及ばず、漢籍、西欧の書物、仏典などを踏まえた、ありとあらゆる〈知〉が、これでもかと盛り込まれている。そのおもしろさは無類だ。伝説や神話、あるいは民俗学などに興味を持っている人なら、一度は手に取るべきだ。
 だが、この本を読破することは決してたやすいことではない。熊楠の語り口や記述は、奔放でありつつ重厚。高尚でありながら低俗。目眩くような文章だ。その豊潤な内容と相俟って、この書物は教養のない者(私も例外ではない)が手を出すと、たちまち消化不良に陥る。それに耐えきれない人も多いのではないかと想像される。
 しかし、大学時代の読書とは、そのような書物を何とかして自らの内に吸収しようと格闘する営為ではないか。間違いなく愉悦を与えてくれる書物なのだ。何度でも挑戦すればよい。本書はその価値のある作品である。

鳥取大学
地域学部地域学科准教授

久保 堅一

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