健康・老化・寿命 : 人といのちの文化誌

推薦文

健康・老化・寿命 : 人といのちの文化誌
著者:
黒木登志夫著
出版社:
中央公論新社
ISBN:
9784121018984
所蔵:
中央図書館 新書・文庫コーナー
新書:Cks:1898

 我が国の平均寿命は、男女ともに80歳を上回り長寿国家として知られている。一方、長年にわたり、平均寿命と健康寿命との約10歳の隔たりが縮まっていない。超高齢社会において、平均寿命の延び以上に健康寿命を延ばすことが、個人レベル、社会的レベルで重要な課題として残されている。近年、このような背景からも個体および細胞レベルの老化に関わる研究が多くの研究者により進められてきた。細胞老化研究において、老化細胞が潜在的に有害な細胞であるとされる理由に老化細胞特異的な炎症性サイトカイン、細胞増殖因子、細胞外マトリックス分解酵素などを分泌(SASP:Senescence Associated Secretory Phenotype)することが明らかにされ、がんを含む様々な加齢に伴う生体機能の低下や加齢性疾患発症へ関与している可能性が指摘されている。
 こうした流れの中で、近年、老化した細胞を除去、あるいは老化を遅延するとされる薬剤(Senolytic Drug)を用いて、老化細胞をマウス個体内から除去すると健康寿命を延ばすことができるという報告が注目されており、超高齢社会の課題解決の道を拓く糸口として期待されている。今日の科学の発展は、これまで多くの先人による研究成果が基盤となっており、研究の歴史や背景を知ることはとても重要である。
 本書は、老化や寿命など領域的に限定したテーマではあるが、これまでの研究の歴史を分かり易く紹介し、科学の原点である知的好奇心をくすぐり、これから研究の入口に立とうとしている学生のみなさんに、ぜひ読んで頂きたい一冊として推薦する。

鳥取大学
染色体工学研究センター長

久郷 裕之

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Theme Index