天、共に在り : アフガニスタン三十年の闘い

推薦文

天、共に在り : アフガニスタン三十年の闘い
著者:
中村哲著
出版社:
NHK出版
ISBN:
9784140816158
所蔵:
中央図書館 開架
333.827:Ten

 2019年に私たちはかけがえのない国際人を2人失った。一人は緒方貞子氏。国連難民高等弁務官として世界の紛争の現場で活躍した。もう一人は中村哲氏で12月にアフガニスタンで銃撃を受け亡くなった。中村氏の本業は医者である。医者としてアフガニスタンに赴き、貧しい人々やハンセン病患者への診療活動をスタートさせる。
 本書は中村氏がアフガニスタンで活動した30年の記録である。アフガニスタンはインドの北西、山岳地帯が大半を占める乾燥地である。テロと紛争が続くところでもあり、今でも外務省の危険レベルは4である。現地で診療所が襲撃されたとき「死んでも撃ち返すな」と報復の応戦を引き留めたことで、現地の人々の信頼の絆を得る。本書では、中村氏の活動が次々と展開してゆく様が語られる。大干ばつに伴い、飢餓や不衛生な水を飲んで倒れてゆく子供たちを前にして、命の水を確保するために1600本の井戸を掘り、さらには食糧確保のために砂漠に25キロに及ぶ用水路を拓いてゆく。まさに人が人として生きるためには何をすべきかを考え、実行していった方であった。銃撃に倒れた時にはアフガニスタンの人々が悲しんだ。このような人物がいたことを私たちは忘れてはならない。
 中村氏は2019年5月に鳥取で講演を行っている。アフガニスタンでの活動を語られた最後に、地球温暖化による氷河の縮小と、用水路の水への影響を心配されていたのが印象に残っている。

鳥取大学
乾燥地研究センター長

山中 典和

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