老農・中井太一郎と農民たちの近代

推薦文

老農・中井太一郎と農民たちの近代
著者:
大島佐知子著
出版社:
思文閣出版
ISBN:
9784784217106
所蔵:
中央図書館 開架 ほか
610.12:Ron

 日本の稲作技術の基本を作った熱き農業指導者が鳥取県倉吉市にいた。その名は中井太一郎。
 多くの学生が小学校の頃、田植を経験したことがあるだろう。みんなで一列に並んで、ひっぱったひもの印のところに苗を植えていく。この植え方を「正条植」というが、実はこれ、中耕除草機を使うために中井が「田植定規」を考案・普及させたものだ。
 除草剤が開発される前の除草作業は大変な重労働であった。炎天下の中、田で四つん這いになり手で草を取る。この作業を3~4回繰り返す。この重労働から解放したのが、中耕除草機「太一車」である。中井は地元の倉吉千歯を見て「田打車」を改良し、明治25年(1892年)に「太一車」で特許を得ている。「太一車」の開発は、過酷な除草作業を著しく軽減させた。この功績はまさに、稲作革命と呼ぶにふさわしい。
 本書は、中井太一郎の農業改良活動の足跡を丹念に調べ上げ、中井が技術普及に立ち寄った全国各地に出向き、史料に当たって書き上げた労作である。文中に中井が著した農書の引用も多いので、少し読みにくいと感じるかもしれないが、是非とも図書館で手にとって、中井の稲作に対する熱い思いを感じて頂きたい。

鳥取大学
副学長(周年事業担当、学生支援・学友会担当)

山口 武視

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Theme Index