リスクにあなたは騙される : 「恐怖」を操る倫理

推薦文

リスクにあなたは騙される : 「恐怖」を操る倫理
著者:
ダン・ガードナー著 ; 田淵健太訳
出版社:
早川書房
ISBN:
9784152090362
所蔵:
中央図書館 人間力関係図書 ほか
141.51:Ris

 この本には、私と家族が実際に経験した恐怖について書かれている。
 私は、2000年から3年間、米国バージニア大学に留学した経験を持つ。そこで、9.11を経験した。バージニア大学と、飛行機が着弾したニューヨークの貿易センタービル、そしてペンタゴン(ワシントン)との距離は、おおよそ米子から東京、姫路との距離に等しい。また9.11の直後、手紙を用いた炭疽菌によるバイオテロが発生、22名が感染して5名が不幸にして亡くなった。私は手紙を全て捨てることで、その恐怖と戦った。
 この本は悲惨なテロがやがて戦争にまで発展する課程を詳細に書いてある。また、炭疽菌の他、ジフテリア、コレラ、天然痘ウイルス、HIV・エイズ、西ナイルウイルス、SARS、狂牛病、エボラウイルス、マラリア等感染症が取り上げられており、感染症治療を研究する私にとって興味深い。ヒトが恐怖を理解するのは、「頭」と「腹」であると著者は解説しており、感染症において頭は自然免疫、腹は獲得免疫と私なりに理解している。
 1996年大阪堺市で小学校給食による世界最大規模のO157集団食中毒事件が発生、その恐怖は私自身のなかでモチベーションとなり研究活動を続けている。2020年1月から新型コロナウイルス感染症が恐怖になった。この本を読むことで未来の恐怖について今一度考えてみませんか。

鳥取大学
医学部医学科教授

藤井 潤

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Theme Index